「透明なゆりかご」という素敵な題名には母性愛的なあたたかさがあるのかな、と思った私の考えはいきなりひっくり返されました。
「透明な」のは人口中絶された赤ちゃんを入れるビンのことだからなんですね。
はじめから結構ショックを受けてしまいました。
でも意外に生々しさで見たくなくなる…ということはありませんでした。
その理由は産婦人科の医療スタッフ役の皆さんの演技力です。
ビジネスライクというと冷たいイメージに考えがちですが、目の前の患者に真摯に向き合うのみで、それ以外の感情は処置室には持ち込まない。
そんなさばさばしたムードに、見る方も影響を受けてしまいます。
対して主人公の青田アオイは、新米スタッフという設定なので感情を隠し切れません。
中絶処置の時にはフリーズしてしいまい、逆に感情が出せなくて倒れずにすんだり、出産シーンでは感動の涙を流してつい謝ってしまったりと、その初々しさがドラマのシビアさに少し花を添えるようにキラキラしています。

アオイ役の清原果耶さんはドラマ初主演とのこと。
新人女優の初々しさがそのまま新人看護スタッフの役とマッチしていて、親近感のもてるピュアな演技でした。
後半で幸せに退院したはずの赤ちゃんの死を知ったとき「幸せのままで死んだはずだ」と考えることに決めた姿は、看護師の卵としての主人公の成長を感じさせてくれて、頼もしいです。
このドラマでは中絶と出産、正反対の出来事がほとんど時間を置かずに起きます。
その対比が音を使って、とてもよく表現されています。
中絶シーンでは医師は最小限しか話さず、患者も押し殺して泣くばかりでとても静かです。
出産の場面では医療チームは人数も多く、産婦もつらさを我慢せず叫び、家族も立ち会ってにぎやかです。
極めつけに出産の瞬間にはオーディオから「ハッピーバースデー」が流れます。
同じ部屋とは思えないくらい活気に差があり、音量スイッチと一緒に色や温度まで瞬時に切り替わったような、不思議な気持ちになりました。
隠さず亡くなる命について語っていることに、このドラマの意気込みを感じます。
亡くなってゆく命への哀悼と、無事育つことが許された命へのエールが伝わってくる、心が透き通るようなストーリーです。
初回にはあまり出てこなかったのですが、公式サイトによると、アオイ自身母子家庭で多少苦労した子供時代を送っていました。
そういえば母娘の場面で、アオイがセミの羽化のことで母親に謝るシーンがあって、なんでそんなことで気を遣うのだろうと思ったのですが、その辺りが掘り下げて描かれるのが楽しみです。


ちなみに初主演となる「透明なゆりかご」はU-NEXTだと、見逃し配信と原作漫画の両方がアップされていますので、おすすめです。
原作の漫画との比較

沖田×華の原作マンガを読んだことある方は、このドラマには少し違和感を持つかもしれません。もちろん原作とは舞台も登場人物もほぼ同じです。
ドラマの初回だけでいうならストーリー的にもコミックに載っているケースなのですが、原作の悲しみや喜びの沸点を抑えたような、日記のように少し引いた淡々とした語り方とは、病院内の空気が違います。
TVドラマなので当然臨場感はありますが、それだけでなく、主人公のアオイや由比院長たちの心の動きが、語り手を挟まずにストレートに突き刺さってきます。
青田アオイの母親や患者の家族たちが、能動的に出演しているのもドラマならではですね。
ひょっとしたら「由比産婦人科」そのものも原作より少し小規模で、かわりに医療スタッフの役者さんたちの個性がクリアになるように工夫されているかもしれませんね。
新米のアオイをみんながどう育てていくのかが楽しみになってきます。
コウノドリとの違い

昨年第2シーズンが放送されたドラマ「コウノドリ」もマンガが原作でしたね。
同じ産婦人科が舞台とはいえ、「透明なゆりかご」はコウノドリとはだいぶ違った作品です。
コウノドリの舞台は総合病院であり、主人公の鴻鳥医師は自分のジレンマをピアノで表現し、昇華させるという手段を持っています。
対して「透明なゆりかご」の由比産婦人科は個人経営の病院で、青田アオイは新米のアルバイトスタッフです。
でもだからこそ、初めての経験に対する衝撃、自分も一緒に産婦と成長していく喜びなどが等身大で伝わってきて、主人公に共感する気持ちも増しています。
もう一つの大きな違いは、やはり「中絶」を扱っていることでしょう。
アオイが一番最初に担当した業務が、中絶の立ち合いと命のかけらを「ゆりかご」に納めることだったのでした。
望まれなかった命に真摯に向き合い続ける主人公が、どういう考えを持って成長していくのか、おそるおそる期待しています。


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